春待つ花のように
 いつまでもバルトを愛し続けているテーラに痺れを切らし、ロマが殺してしまった時も、何も言わなかった。

 ロマが、妻が嫉妬に狂って妾を殺した、そう周りに言いふらしても何事もなかったように生活を続けた。

 ロマを愛している女を演じていた。時折、愛し過ぎて迷惑な女も装ってみた。

 それが今、報われる時がきたのだと彼女は感じていた。

「アスラン派の人間に殺されるより、私に殺される方が幸せになれると思わない?」

「何?」

「どうせ、このまま放っておいても、貴方はノアルに殺されるでしょ? それだったら王妃が愛に狂って殺した…そういう結果になった方がいいと思って。貴方の時代はもう終わったのよ」

 鋭い刃を見つめながら、レティアは言う。刃にうつる彼女の顔はとても美しかった。

「大丈夫。私もすぐに貴方を追いかけるわ。一人にしないから」

 レティアはロマに抱きつくと、刃をもう一度彼の腹に刺した。
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