春待つ花のように
「レ…ティ…」

 ロマは苦しそうに彼女の名を呼ぶと、ダラリと腕を落として力が抜けた。彼女はロマから離れると、服についた彼の血を見つめた。

「バルト国王を殺すからいけないのよ。貴方は人の上に立つような器ではなかったんだから」

 レティアは寂しそうに微笑んだ。彼に言われた思い出の言葉を思い出そうとする彼女。

 しかし二人の間には愛などなかった。彼に言われた嬉しい言葉など、考えても思い出すことはなかった。

「貴方に愛されたことを思い出しながら、死のうと思ったのに、何も思い出せないのよ。困ったわね」

 クスクスと笑いだす彼女。まだ温かいロマの頬を触ると、涙が零れた。

 いつかは彼から無償の愛をいただける、そう思って夜伽も耐えてきた。愛のある生活に憧れ、純粋に努力を重ねていた時期もあった。

 最初から、彼の妻であることに反感をもっていたわけではなかった。

「もう一度、やり直したいわね。貴方に嫁いだ夜から……。今度は間違わないように」












 カインは王室に入ると顔を背けた。続けて入ってきたノアルはこの部屋の惨劇に瞳を大きく開けた。

「どうして…」
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