春待つ花のように
「ユズキ…」

 カインが暗い表情がユズキのことを見つめる。彼は、自分の気持ちを知っているのだろうか。

 それともただ人が死んだから、暗い表情をしているだけなのだろうか。ユズキは笑顔でカインを見ると、王室の戸を閉めた。

「国王が死にました。これ以上、無益な血は流さないでください。これがレティア様の願いです」

「わかっています」

 カインが頷くと、ユズキの肩を抱いた。今にも泣き出しそうな顔をしていた。

 10年前の自分と同じ顔をしている。好きな人を犠牲にしたときの顔を同じだった。きっとレティアのことを慕っていたのだろう。

「ゼクス、アンジェラ、シェリルの三人は無事ですよ」

 ユズキはそう言うと王室の戸を開けて出て行こうとした。

「何処に?」

 ノアルが口を開く。

「国王が亡くなった事を皆に伝えてきます。次期国王はノアル様だと…。ここにレティア様の遺書があります。それを公表してきます」
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