初恋の実らせ方
あれからもう半月が経つのに、彩はまだあのときの英知が気になっていた。


いや、気にさせるように去って行ったまま、顔すら合わせようとしない英知に腹が立っているだけかもしれない。
だけど、どちらにしろ、それは啓吾に相談するようなことじゃないと分かっていた。


「―――そんなことないよ」


彩が首を振るのを見て啓吾はやや腑に落ちない様子で、ならいいけど、と言った。


「それとお礼も兼ねて」


「お礼?」


「キスのおかげで早く治りそうだし」


啓吾が指差した右頬には、痛々しく湿布が張られている。
彩が慌てて貼ったためにかなり不格好だったけれど。


ふと、もう英知の痣は癒えただろうか、と思った。


まだ痛むのなら、どうにかしてその痛みを拭い去ってあげたい。


あのキスを啓吾が怒るなら、彩は英知と同様に咎められても仕方ない。


彩はキスを拒むことができず、そればかりか心地良いとさえ思ってしまったんだから。
< 120 / 184 >

この作品をシェア

pagetop