初恋の実らせ方
啓吾は大好きだし、いつも優しくて不満に思ったことなんてない。
なのに、どうして触れられるのがこんなに怖いんだろう。


英知とのキスだって嫌だと思えなかったんだから、大好きな啓吾とする全てのことはそれよりも嬉しいはずなのに。


手を出してもらえないのは興味がないからだ、と悲しくなったのは最近のことなのに、実際に迫られてみると怖くて堪らない。


「緊張しないで」


啓吾はそうつぶやくけど、緊張なんてきっともう通り越してしまった。


啓吾が怖い…。
震えがおさまらず、彩が何も言えなくなったとき、啓吾はその腕を解いた。


状況を掴めず、彩が驚きを隠せずに啓吾を振り返ると、彼は笑った。


「なんてね。
迫りすぎて嫌われるのも困るし、俺は彩が嫌じゃなくなるまで待つから」


啓吾の笑顔を見て途端に気が抜け、彩の目には涙が浮かぶ。
それに気付いて、啓吾は服の袖で彩の涙を拭いながら意地悪そうに言う。


「泣き虫…。
そんなに嫌だった?」


それはショックだな、とつぶやく啓吾はいつも通りで、ホッとした彩の目から涙がこぼれた。
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