初恋の実らせ方
啓吾はため息をつく。


彩を泣かせるつもりなんてなかった。
ただ英知に先を越された苛立ちが募っただけだ。


「ごめん、ただの嫉妬」


「え…?」


「俺はまだ何もしていないのに―――」


啓吾はそこで言葉を切った。
だけど啓吾の言いたいことが分かったのは、彩も無意識のうちに英知のことを考えていたからかもしれない。


もし今、彩を抱きしめていたのが英知だったら、果してあんなに怖かっただろうか。


きっと嫌がりはしたと思う。
だけどそれはきっと、英知への恐怖じゃなくて啓吾への罪悪感からだ。


英知だったら拒めなかったかもしれない。
漠然とした予感に彩は不安になる。


黙ったままの彩を見て、啓吾はため息混じりに言う。


「―――もし今のが英知だったら、彩は拒んだかな…」


まるで考えを読まれたようで、彩は顔を真っ赤にして啓吾を見た。
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