初恋の実らせ方
市営の野球場だから規模は小さいのに、救護室までの道のりは果てしなく長く思えた。


そして途中で見覚えのある女の子にすれ違う。


「―――あ…」


以前、街で出会った子。
確か野球部のマネージャーで、英知に仙道と呼ばれていたっけ。


息を切らせた彩の様子を不審に思いながら、真希は小さく会釈する。


「あの、四番の選手が運ばれたって聞いて…」


慌てながらも、彩は何とかそれだけ言葉にすることができた。


真希は一瞬目を見開くと、あぁ、とつぶやき、少しためらった後に口を開いた。


「四番なら、この先の救護室でまだ休んでいますよ」


真希は目を逸らしながら言った。


「ありがとう…」


彩は真希に勢いよく頭を下げると走り出す。


「あ、あの…」


背中にかけられた真希の止める声は、もう彩の耳に入らなかった。
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