初恋の実らせ方
「念のために休ませてるけど、ただの脳震盪だから大丈夫よ。
―――高橋さん、彼と知り合い?
悪いけど、学校側に状況を説明しなきゃいけないから、電話を掛けてくる間、彼を見ててくれないかしら?」


彩が頷くと、先生は安心そうに笑んで部屋を出て行った。


それと同時に、ふと違和感を覚える。
去年英知は、彩にちょっかいを出しに、よく保健室に顔を出していたから、先生は二人が知り合いであることを知ってるはずだった。


英知を紹介したとき、卒業生である啓吾も合わせて三人セットで覚えておくわ、と言ったのは紛れもなく先生自身なのに。


変だとは思ったけれど、英知が無事だったという安心が大きかったためにそれ以上気にはならなかった。


彩はベッドに一番近い椅子に腰掛け、ようやく落ち着くことができた。


「心配させないでよ、英知」


カーテンの奥で寝ているだろう英知に彩は語りかける。
たった一枚の薄い布を隔てるだけで、彩は素直になれた。
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