初恋の実らせ方
「手、ちっちゃ…」


啓吾はくすくす笑うと、


「俺のじゃ大きいけど、ないよりマシだろ」


そう言って彩の後ろに立ち、始めて、と号令をかけた。


彩は矢をつがえるところで手を止めて啓吾を振り返る。


まだ矢を使ったことがないからどうしていいか分からない。


啓吾は戸惑う彩を見てそっか、とつぶやくと背後から手を回し、彩の体の前で手本を示してやる。


「弦の真ん中あたりが太くなってるだろ。
ここに矢尻をはめるんだ」


彩は耳元で囁く啓吾の声と、体に回された腕に緊張しながら頷く。


啓吾はそんな彩をからかいたくなるのを堪えながら、矢をつがえた弓を彩に託す。


「力抜いて、続けて」


「うん」


その後の彩の型は比較的基本に忠実で綺麗だった。
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