初恋の実らせ方
啓吾は彩の肩にそっと手を置くと、もっと力を抜いて、と声を掛ける。


耳元をくすぐるハスキーで甘い声と、肩に触れる啓吾の手の感触が彩の集中力を奪う。


弓道がこんなに心臓に悪いなんて思いもしなかった。


さらに肩に力が入る彩に苦笑しながら、啓吾は離れを指示した。


矢は勢い良く放たれた。
的には1メートル程届かなかったものの、初めてにしては上出来だった。


だけど弓音は鈍く、それは弦がどこかに触れたことを意味していた。


硬い弦が頬を打てば痣が残ることもあるから、啓吾は慌てて彩の頬に手を当て、自分の方に向かせた。


「彩ちゃん、大丈夫!?」


だけど心配そうな啓吾を尻目に、当の彩はきょとんとしていた。
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