初恋の実らせ方
彩の顔には痣一つない。
どうやら弦が制服のブラウスを擦った音だったようだ。


「そうだ。
女の子は弦で胸を擦らないように、胸当てを付けるんだった」


啓吾は弓を壁に立て掛けると、少し乱れたブラウスを直してやろうと手を伸ばした。


その瞬間、彩は昨日の英知を思い出して、とっさに胸を隠すように身構えてしまう。


「あ、悪い…。
嫌だよな、男に触られんの」


啓吾は両手を振りながら、下心なんてないから、と付け加える。


自意識過剰な自分を恥ずかしく思いながらも、彩はふと英知との賭けを思い出して笑ってしまった。


急に笑い出した彩を見て啓吾は眉をひそめる。


「何?」
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