初恋の実らせ方
「だって…」


ドキドキするんだもん、と彩はつぶやいた。


啓吾のことは好きだけど、恋愛経験の豊富な彼との付き合いは彩にとって緊張の連続だった。


「私なんて何の経験もないのに、啓吾を満足させられるわけないもん。
つまらないと思われるのが怖いの」


彩がそこまで口にしたとき、英知は大きく溜め息を吐いた。


「くっだらねぇ」


英知は飲み干したペットボトルを乱暴にごみ箱に投げつけると、それはごみ箱の角に当たって側に転がった。


「そんなの、彩が兄貴のこと信用してないだけじゃん」


「そんなことな…」


「―――あるね。
兄貴は彩がいいって言ってんのに、自分で勝手にそんなふうに思い込んでキスもさせないなんて、兄貴がかわいそうだ」


本心だったが、こんなことを言わされる自分が一番かわいそうだと英知は思う。


自分の好きな子の悩みを聞いて、彼女が別の男と上手くいくように手助けしてやるなんて、マゾしかできない。
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