LOST OF THE WORLD
第1章
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昔、イタリアの都フィレンツェの近くにあるピサの大聖堂で、一人の若者が祭壇に祈りを捧げていた。若者は神を信じていた。そして彼の周りにいる人も当然、神を信じていた。
その当時、誰もがこの世は神によって作られた産物だといい、物事が精密な法則によって成り立っていることに驚いては、さらに神を崇めた。それは勉学に励んでいるものなら尚更のことで――日常では相成れない事柄に精通している科学者が、神秘主義者となっていくのは当然の流れであったのだ。
勿論、医学生であった“彼”も例外ではない。
若者もただひたすらに神を信じ、祈りを毎日欠かさなかった。











しかし、その“彼”がのちに宗教裁判にかけられ、異端者と断罪される運命にあるとは誰が思うだろう。











「それでも地球は動く」と後の大発見で呟いたガリレオは、むしろ神が想像したこの世の精密さに震えあがっていたのではないだろうか。








神と本当の意味で対峙する、とは、時として自らを孤独の淵においやることとなる。











それが“神”とされなくなった現在でも、人は孤独と戦い続けなければいけないのだろうか。






カミュが投げかける『異邦人』にはムルソーという家族とも疎遠で、共同体にも帰属しない“世間から外れた”主人公が登場する。




やがて多くの者が神を見失い、生きる意味さえ見失ってしまう…。





かの有名な作家ドストエフスキーはそう預言した。







今を生きる自分達は何を頼りに前へ進むことができるのか。






しかし、ただ一つだけいえるのは、


自分は確かに今ここへ存在している、



ということだけである。



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