柾彦さまの恋
突然、柾彦は、我を忘れて力強く祐里を抱きしめる。
祐里は、消毒液の匂いに包まれた。
柾彦は、祐里の温もりと甘い香りに包まれて、しあわせを感じていた。
「柾彦さま、何かございましたの」
祐里は、柾彦の今までにない行為に驚きながらも、
母のような優しさで柾彦を包んだ。
柾彦からは、心身の疲労と激しい恋慕が感じられた。
「姫、しばらくの間、このままでいてもいいですか」
柾彦は、祐里の耳元で囁き、自分の行為を恥じながらも
(姫を離したくない。今だけでもぼくの姫なのだから)
と強く思う。
窓の外では、桜の樹が秋風にさわさわと葉音をたててそよいでいた。
「はい」
祐里は、柾彦の心労を感じ、柾彦の背中に手を回して
(いつも、優しく守ってくださる柾彦さま。いかがされたのでございますか)
とこころの中で呟いた。
祐里は、柾彦が大好きだった。
光祐への愛とは全く違う愛情を感じており、失いたくない存在だった。
柾彦が自分を好いていることは以前から感じていた。
勿論、光祐の妻として、それに応えることはできない。
それでも、柾彦との楽しい時間を失いたくはなかった。
祐里は、自分のその想いが柾彦を苦しめていることを改めて感じ
(柾彦さまの優しさに甘えてばかりの私がいけないのでございます)
と自身を責める。
柾彦は(このまま時間よ、止まっておくれ)と強く念じていた。
その時、扉が叩かれた。