柾彦さまの恋
 
 柾彦は、驚いて反射的に祐里を離した。


「はい。どうぞ」

 柾彦は、辛うじて返事をする。



「祐里さん、こちらでしたのね。

 お茶にお誘いしようと思って捜しておりましたのよ。

 柾彦さんも一段落したら、いらっしゃい」

 結子は、柾彦の動揺した表情に気付きながらも、明るく祐里に声をかける。

「はい、おばさま。

 お誘い、ありがとうございます。

 柾彦さまとのお話が終わりましたら、すぐに伺います」

 祐里は、落ち着いた笑顔を結子に向ける。


「それでは、お茶の準備をして待っていますね。

 祐里さん、お茶が冷めないうちにお早くね」

 結子は、すぐに扉を閉めて廊下へと消えた。


 廊下に出た祐子は、しばらくの間、壁に凭れて、

柾彦の一途さを不憫に思い、柾彦の祐里に対する恋慕を憂慮していた。

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