柾彦さまの恋

美月


 鶴久病院の職員出入り口に、美月は、大きな鞄を手に佇んでいた。

「柾彦さま、来てしまいました。柾彦さまのいない日々は、私には耐えられません」

 教授の娘の檜室美月(ひむろみづき)だった。
 
 柾彦を真っ直ぐに見つめる美月の瞳には、大粒の涙が溢れていた。



「美月さん、突然にどうしたのですか」

 柾彦が医師として鶴久病院に戻って来てから、八ヶ月が経とうとしていた。


 柾彦は、ただただ驚いていた。

 教授の家には、数回招待されて伺ったことがあり、

もちろん美月ともその時に会話を交わしたことはあったが、

交際をしていたわけではく、柾彦にとっては、教授の娘という認識しかなかった。


「お見合いのお話がすすんでおります。

 私は、柾彦さまに嫁ぎたく思います。

 檜室の家には、もう戻らぬ覚悟で参りました」

 美月は、熱い想いを柾彦にぶつけて、柾彦の広い胸に飛び込んだ。

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