柾彦さまの恋
「美月さん、ぼくには、おっしゃっている事がよく理解できないのですが、
落ち着いて話をしてください。
とにかく、ここでは話ができませんので、自宅へどうぞ」
柾彦は、美月の大きな鞄を受け取り、自宅に招き入れた。
母の結子が所用を済ませて帰って来るまでに話を終わらせたかった。
美月を居間の長椅子に座らせて、落ち着くように熱い紅茶を入れる。
柾彦自身も熱い紅茶を飲んで落ち着きたい心境だった。
柾彦は、紅茶を一口飲んで深呼吸をする。
「美月さん、ぼくは、あなたの名前と教授の娘さんであることくらいしか
知りません。
それなのにぼくと結婚するなど理解に苦しみます」
柾彦は、美月を傷つけないようにするにはどうしたらいいのか、
頭の中で考えていた。
「美月では駄目ですか。それとも、既にどなたかいらっしゃるのですか」
美月の瞳からは、真珠のような涙がぽろぽろと次から次へと零れ落ちる。
柾彦は、不思議な気分でその様子を眺めていた。
どなたかと問われて、想い描くのは祐里の顔・・・・・・
柾彦は、突然の美月の想いに戸惑うばかりだった。
「美月さん、ぼくは本当にあなたのことを何も知らないのです。
とにかく涙を拭いてください。目が腫れてしまいますよ」
柾彦は、白衣のポケットからハンカチを取り出して美月に渡した。
美月は、そのハンカチを愛おしそうに握りしめた。