柾彦さまの恋
祐雫
祐雫(ゆうな)は、白百合女学院小学校の六年生に進級した。
父の光祐よりまっすぐな性格を受け継ぎ、成績優秀で
(どうして長女の私は、桜河家の後継ぎにはなれないのかしら)
と不思議に感じていた。
同級生たちは、流行の洋服や髪型のこと、
星稜学園小学校の誰某が素敵という話ばかりで、
話を合わせてはいたが、どこか物足りなさを感じていた。
土曜日の放課後、
祐雫は、よき理解者である柾彦を頼って、鶴久病院を訪れた。
祐雫が病院の扉を開けると、受付係の倭子(しずこ)が笑顔を向けた。
「祐雫さん、こんにちは。柾彦先生は、今、ご自宅へ戻られましたよ」
「こんにちは。それでは、ご自宅へ参ります。ごめんくださいませ」
祐雫は、受付係の倭子にお辞儀をして、自宅へ続く廊下を進んだ。
柾彦は、自宅の前で、秋の和かな日差しに輝く桜の樹を見上げていた。
十数年前に桜河のお屋敷から譲り受けた挿し木は、
見事な枝振りに成長していた。
それとともに鶴久病院は、益々発展していた。
「こんにちは、柾彦先生。お腹が空いたので来てしまいました」
祐雫は、にっこり笑って柾彦に駆け寄った。
「雫姫。ようこそ、鶴久城へ。
母上さまに断ってきたの。また、内緒にして来たのでしょう」
柾彦は、祐雫の頭を撫でて微笑み返す。
祐雫は、初めて出会った頃の祐里に顔立ちがよく似てきていた。
ただ、祐雫は、はきはきとした性格で、生まれながらにして
桜河のお嬢さまとして誰にも臆することなく育った風格を備えていた。
柾彦は、玄関の扉を開けて、祐雫を自宅に通した。