柾彦さまの恋
「ただいま、母上。雫姫も一緒なのだけれど」
「こんにちは。おばさま。おいしそうな匂いに釣られて来てしまいました」
玄関の扉を開けると、昼食の美味しそうな匂いが立ち込めていた。
「お帰りなさいませ、柾彦さん。
祐雫ちゃん、いらっしゃいませ。
ちょうどよかったですわ。
お昼を作りすぎてしまって困っていたところでしたのよ。
祐雫ちゃんのお鼻は、よく利きますのね」
結子は、祐雫の鼻に軽く手を当てた。
「また、姫に内緒で来ているから、母上、電話を入れてください。
姫が心配している頃だろうから」
「はい、はい。祐里さんを心配させてはいけませんものね」
結子は、祐里に電話をかけてから、昼食を食卓に並べた。
「柾彦さん、祐里さんがよろしくお願いしますとのことでした。
祐雫ちゃん、どうぞ、たくさん召し上がれ」
「いただきます」
祐雫は、結子の作る洋食が大好きだった。
「優祐くんは、家に戻ったの」
「はい。午後から、剣術のお稽古でございます。
優祐は、母上ご自慢のよい子でございますもの」
「まぁ、祐雫ちゃんがお姉さまのようですわね」
結子が声高に笑う。
「おじいさまが、優祐を兄とお決めになられたので、
祐雫は妹でございますが、
双子なので、祐雫が姉でもよろしゅうございましたのに」
祐雫は、口を尖らせる。
「雫姫は、ご機嫌斜めだね。何かあったの」
柾彦は、食事を終えて、祐雫を居間の長椅子に座らせた。