柾彦さまの恋
「祐雫は、なんだかつまりません」
柾彦は、祐雫のことを姪のように感じていた。
「祐雫は、今の学校では退屈ですの。
優祐のように、もっともっと勉強がしたいのです」
「そうだったの。雫姫は、勉強が好きだったのか」
柾彦は、祐雫を抱きしめ、祐里を抱きしめている気分に浸っていた。
「柾彦先生の匂いがいたします。
消毒液の匂い。お医者さまになるのもよろしゅうございますね」
祐雫は、柾彦の腕の中で、小さな希望を見出していた。
「まぁ、それはよろしゅうございますわ。
柾彦さんときたら、相変わらずの堅物で、
鶴久病院の後継ぎができませんもの。
祐雫ちゃんが後継ぎになってくだされば、鶴久病院も安泰ですわ」
結子は、食卓を片付けながら、喜びの声をあげた。
「母上は、また、そのような夢の話をされて。
雫姫は、桜河家の大切な姫ですよ。
光祐さんから叱られます。
雫姫、進路については、父上さまとよく相談をするといいよ」
柾彦は、母の発言を窘めながら
(ぼくが、もう少し若ければ、雫姫に恋をしていたかも知れない)
と祐雫の中に受け継がれる祐里の面影に、こころの中で呟いていた。