柾彦さまの恋
その夜、光祐は、祐雫の部屋の障子越しに声をかけた。
剣術の稽古で疲れた優祐の部屋の明かりは消えていた。
「祐雫、まだ、起きているの」
「父上さま」
祐雫は、机から立ち上がり、障子を開けて、光祐を部屋の中に入れた。
「勉強をしていたのかね。祐雫は、勉強熱心だものね。
この頃、祐雫がつまらなそうにしているのが気になっていたのだよ」
光祐は、長椅子に座り、隣に祐雫を座らせた。
「祐雫のことを気にかけてくださったのでございますか」
「もちろんだとも。可愛い私の子どもだからね」
光祐は、優しい笑顔で大きく頷いてみせた。
「祐雫は、優祐のようにもっともっとお勉強がしとうございます。
母上さまは、いつも女の子らしくとおっしゃられまして、
祐雫にお手伝いばかり仰せになります」
祐雫は、光祐の深い愛情を感じて、こころに陽が差し込んだ気分になる。
「そのようなことはないだろう。
祐雫のことを一番心配しているのは、母上だよ。
母上は、心配を表情に出さないひとだからね。
それに、手伝いは勉強と同じように、
生きていくためには大切なことなのだよ。
母上は、祐雫だけではなく、
優祐には男らしくと他の手伝いをさせているし、
祐雫は、これから様々な体験をして、
日々成長していくのだから焦ることはないのだよ」
光祐は、自己主張をするようになった祐雫の成長を感じていた。