柾彦さまの恋
「萌さん、誉めていただきありがとうございます。
さあ、銀杏亭に着きましたよ」
柾彦は、車を降りて、後部座席の扉を開けた。
「柾彦先生、ありがとうございます。
笙子さんのことをよろしくお願いします。
笙子さん、それでは、ごきげんよう」
萌は、自身の見立ては間違いではなかったと、こころ踊る気分になった。
柾彦の好みは、祐里のように慎ましやかな女性と心得ていた。
「萌先生、私も銀杏亭にお供いたします」
笙子は、萌が車から降りると、
初対面の柾彦と二人きりになることが心細く感じられて、
慌てて萌の後を追った。
「今日は、銀杏亭で杏子さまとお話がございますので、
笙子さんは、ご遠慮していただけるかしら」
萌は、ここで笙子に車を降りられては大変と思い、
慌てて車の扉を閉めた。
「萌先生・・・・・・」
笙子は、心細さで瞳を潤ませた。
「それでは、萌さん、杏子によろしく伝えてください。
笙子さんのことは、任せてください」
柾彦は、萌に会釈をして、運転席に戻った。
萌の姿を見つけた杏子が銀杏亭から出てきて、
二人は、柾彦の車を見送りながら、手を取り合って歓声を挙げた。