柾彦さまの恋
「お待たせしました。急患は、ありませんでした」
柾彦は、運転席に座ると振り向いて、笙子が打ち解けるように、
元気な笑顔で声をかける。
笙子は、白衣を脱いだ柾彦に少し寛いだものを感じた。
「それでは、お言葉に甘えさせていただきます」
笙子は、瞬きをしながら柾彦の瞳を見つめて、少しだけ微笑んだ。
柾彦は、笙子と一緒に居ることでほんのりとした気分を味わっていた。
車内には和やかな空気が流れていた。
「ぼくには、六つ下の妹がいましてね。
この秋に嫁いだのですが、笙子さんは、幾つくらいですか。
あっ、女性に歳を聞いては失礼でしたね」
柾彦は、妹の志子(ゆきこ)と笙子を比べていた。
志子(ゆきこ)は、母の結子によく似た明るく活発な性格だった。
「志子さまでございますね。同い年でございます。
女学校では組が違っておりましたが、志子さまは、はきはきとされて
ございましたので、存知上げております」
笙子は、柾彦が志子にとって、自慢の兄ということも知っていた。
「志子(ゆきこ)と同じ年だったのですか」