柾彦さまの恋
「笙子さん、着きましたよ」
柾彦は、桐生屋の手前で車を停め、後部座席の扉を開けて、
笙子を降ろした。
「柾彦さま、本日は、誠にありがとうございました。
お礼と申しましては失礼かと存じますが、
華道展のご招待券でございます。
よろしゅうございましたら、
是非、お母さまとご一緒にいらしてくださいませ」
笙子は、巾着袋から、華道展の招待券を二枚取り出して、
柾彦に手渡した。
そして、深々とお辞儀をして、柾彦に笑顔を向ける。
「こちらこそ、楽しいドライブでしたよ。
また、縁があるといいですね」
柾彦は、爽やかな笑顔を笙子に向け、車を発進させた。
柾彦の車が角を曲がるまで、笙子は、その場に佇んで見送りながら、
色白の頬を紅色に染め、胸が高鳴るのを感じていた。
柾彦は、角を曲がると腕時計に目をやり、
思いのほか時間が経っていることに気付き、
慌てて車の速度を上げて帰路に着いた。
笙子は、しばらく、柾彦の車が去った方角を見つめて佇んでいた。
偶然の巡り合わせで、初恋の感情が芽生えていた。