柾彦さまの恋
 
 翌週の日曜日に、東野の久世華道会館で、盛大な華道展が催された。



 柾彦は、母を誘って、笙子に会う為に華道展に出かけた。

 久世春翔と萌は、来客の応対で忙しく会場を飛び回っていた。

 柾彦は、受付の後方に佇む笙子を見つけ会釈した。

 笙子は、柾彦の笑顔に見つめられ、恥ずかしげに俯いて柾彦に近付く。

「柾彦さま。いらしてくださったのでございますね。

 ありがとうございます」

 笙子は、丁寧に感謝の気持ちを込めてお辞儀をした。


「こちらこそ、ご招待ありがとう。

 母上、久世のお弟子さんで、

本日ご招待してくださった桐生笙子さんです。

 笙子さん、母です」

 柾彦は、笙子を結子に紹介した。


「はじめまして。鶴久結子でございます」

 結子は、珍しく柾彦から華道展に誘われ不思議に思いながら、

恋愛において堅物の柾彦から女性を紹介されるとは思いもよらず

ただただ驚いていた。

 驚きながらも、結子は、しっかりと笙子を観察する。


 見事な錦秋文様の振り袖姿の笙子は、頬を染め、

柾彦を恋する瞳で見つめていた。

 娘の志子(ゆきこ)が同級生の笙子のことを

『祐里に雰囲気が似ている』と

言っていた事を思い出していた。



「はじめてお目にかかります。桐生笙子でございます」

 笙子は、緊張しながら、結子に深々とお辞儀をした。

「母上、笙子さんに会場を案内していただきましょう。

 笙子さん、お願いするよ」

柾彦は、笙子の瞳を真っ直ぐに見つめて微笑んだ。

「はい。お母さま、柾彦さま、こちらからご案内申し上げます」


 笙子は、春翔の作品から順に案内していった。

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