柾彦さまの恋
「紫乃さん、ただいま帰りました」
祐里は、石畳を静かに歩いて、紫乃の背中を優しく見つめていた。
「祐里さま、お帰りなさいませ。
柾彦さまと入れ替わりに、
今、優坊ちゃまと祐嬢ちゃまがお帰りになられたところです」
「声が聞こえてございました。
柾彦さまとは、途中の道でお会いしました。
紫乃さんの美味しいおやつに、ご満足のご様子でございました。
紫乃さん、今日のおやつは、何」
祐里は、子どもたちの真似をして、微笑みながら問いかける。
「さぁ、何でございましょうね。
可愛い祐里さま、手を洗われましたら、食堂にいらしてくださいませ。
それまでのお楽しみでございますよ」
「はい。紫乃さん。おいしそうな匂いがしてございますね」
紫乃は、子どもたちに話しかけるように祐里にも返事をする。
祐里は、子どもの時から優しく見守り続けてくれる紫乃に
感謝の気持ちを籠めて微笑むと、子どもたちの後を追った。