柾彦さまの恋
夕方になって、薫子(かおるこ)が帰って来た。
「奥さま、お帰りなさいませ」
「紫乃、ただいま帰りました。今日は、少し疲れました」
薫子は、迎えてくれる紫乃の穏やかな笑顔を見るだけで、
疲れが癒されていくのを感じた。
「お疲れでございましたら、お部屋でゆっくりなさってくださいませ。
すぐに熱めのおしぼりと甘いものをお持ちいたしますので」
紫乃は、幾つになっても薫子のことが可愛くて仕方がなかった。
東野の籐子から、
『薫子の身体が弱いのは、紫乃が甘やかすからでございます』
と常々叱られたものだった。
それでも、つい手を出さずにはいられなかった。
「静かでございますね。祐里さんと子どもたちはどちらに」
「おやつを召し上がられて、木の実探しに奥庭へお出かけでございます」
紫乃は、扉を開けて薫子を部屋に入れた。