柾彦さまの恋
弦右衛門は、妻の紗和に目配せする。
紗和は、笙子の後を追って呼び止めた。
「笙子、お話を聞きましょう」
紗和は、奥座敷に笙子を招き入れて正座した。
笙子は、一粒の涙を流して俯くと、紗和の前に正座した。
その時、心配顔の弦右衛門が奥座敷に入ってきた。
笙子に厳しい注意をしたものの笙子のことが気になって、店を颯一朗に
任せて顔を出したのだった。
「父上さま、母上さま、どのように申し上げたらよろしいのか・・・・・・」
笙子は、弦右衛門に反対されると思い、
恋する胸のうちを明かす事に抵抗を感じていた。
それに笙子が慕っているだけで、柾彦の気持ちは分からなかった。
華道展以来、柾彦からの音信は途絶えたままだった。