柾彦さまの恋
「笙子、どなたか好きな方が出来たのですね。
最近の笙子は、恋をしているようですもの。
そろそろ、縁談のお話が出てもおかしくない年頃ですものね」
紗和は、弦右衛門の表情を覗いながら、
笙子の恋する瞳をしっかりと見つめる。
「笙子、それはまことかね」
弦右衛門は、身を乗り出して大きな声をあげた。
その声に驚いて、笙子は、俯いて身を縮めた。
「旦那さま、そのように大きな声を出されては、
笙子が何も申し上げられなくなってしまいます。
さぁ、笙子、あなたの気持ちを聞かせてちょうだい」
紗和は、弦右衛門を抑えて、穏やかな微笑を笙子に向けた。
「萌先生のお知り合いの方で、二度しかお会いしておりませんし、
私がお慕い申し上げているだけでございます」
笙子は、俯いたまま小さな声で返答した。
「二度も会っておるとは、いったい、何処のどなたなのだね」
弦右衛門は、大切に育ててきた笙子が自分の知らないところで、
男性と会っていたことで、裏切られた気分になって強い口調で問い質した。