柾彦さまの恋
杏子
銀杏通りの並樹が色付き始めていた。
柾彦は、久しぶりに銀杏亭で昼食をとることにした。
銀杏亭は、幼馴染みの林杏子が婿を取って、父と共に洋食レストランとして、名をあげていた。
店内は、落ち着いた茶色で統一され、銀杏色の明るいテーブルクロスが挿し色として使われている。
柾彦が扉を開けると、杏子がすぐに気付いて、笑顔で近寄ってきた。
「柾彦先生。いらっしゃいませ。特別席にご案内します」
昼食時の店内は、客で賑わっていた。
杏子は、衝立の奥の特別席へと柾彦を案内した。
中庭の大きな銀杏の樹に面した大窓の特別席は、店内の賑わいから離れてゆったりとした空間を演出していた。
「特別席は、ぼくの貸し切りみたいだけれど、相変わらず、賑わっているね」
柾彦は、椅子に腰かけて、杏子に笑顔を向けた。
「それは、勿論、看板娘がいいからに決まっています。お時間がおありなら、貸し切りのお客さまには、お昼のおまかせコースがお勧めです」
杏子は、胸を張って、柾彦に微笑むと、メニューを開いて『おまかせコース』を指し示した。
「それにするよ」
柾彦は、杏子の勧めに素直に従った。
「かしこまりました。少々、お待ちくださいませ」
杏子は、厨房へ消え、すぐにおしぼりと水の入ったグラスを持ってきた。