柾彦さまの恋
寒椿文様の艶やかな着物に椿色の被風姿の笙子が、花包みを抱えて
華道会館の扉から現れた。
風花の舞う冷たい空気が一瞬、温かみを帯びたように柾彦には感じられた。
「笙子さん、突然ですがお昼をご一緒しませんか」
柾彦は、車から出て、満面の笑顔を笙子に向けた。
「柾彦さま」
笙子は、柾彦に走り寄った。笙子の胸はしあわせで溢れていた。
柾彦に会いたくて、幾度涙したことか・・・・・・
ようやく柾彦に会えた喜びが溢れて、大粒の涙が頬を伝っていた。
「どうしたの。なにか哀しい事でもあったの」
柾彦は、笙子の溢れる涙に驚いていた。
「申し訳ございません。柾彦さまにお久しぶりにお会いできて、あまりに
嬉しゅうございましたので」
笙子は、熱い眼差しをしっかりと柾彦に向けた。
今まで、恥ずかしくて、柾彦の顔をしっかりと見つめる事の出来なかった
笙子だったが、恋するこころは笙子を強く導いていた。
「ぼくも笙子さんに会えて嬉しいよ。さぁ、泣くのをやめて」
柾彦は、花包みを受け取ると、
ハンカチを取り出して笙子の手に握らせた。
笙子は、涙を拭きながら微笑んで、
柾彦が開けた車の後部座席に乗り込んだ。
「笙子さんが落ち着くまで、車を走らせようね」
柾彦は、ゆっくりと車を発進した。
萌は、会館の事務室の窓から、その二人の姿を微笑ましく
密かに見守っていた。