柾彦さまの恋
「突然に伺いまして申し訳ありません。鶴久柾彦と申します。
どうぞよろしくお願いします。
先日、久世萌さんより笙子さんをご紹介いただきまして、
本日は、お付き合いのお許しをいただきに参りました。
どうぞこちらをお納めください」
柾彦は、はきはきと元気よく挨拶をして、風呂敷から桜屋の菓子箱を
差し出した。
「ご丁寧にありがとうございます。
先日、娘から、鶴久先生をお慕いしている旨を聞きまして、
御門違いと思っておりました。
世間知らずの娘で、とてもご立派な鶴久病院の先生と
お付き合いをさせていただけるとは思ってもおりませんでした。
こちらこそ、よろしくお願い申し上げます」
子どもの頃からずっと接客をしてきた弦右衛門は、一目で柾彦の誠実さと
明るさを感じ取っていた。
「失礼いたします」
笙子が、障子を開けて静かに座敷に入って来た。
座卓にお茶を出しながら、父母の穏やかな表情を見て、柾彦が父母に
受け入れられたことを感じ取った。
柾彦は、爽やかな笑顔で、堂々と頼もしかった。