柾彦さまの恋
「笙子さんは、大切に育てられたお嬢さまです。
私も大切にお付き合いをさせていただきます。
それに笙子さんは、鶴久病院ではなく私と付き合う訳ですから」
柾彦は、笙子の瞳を見つめて話した。
笙子も熱い瞳で柾彦を見つめ返した。
「そのように思っていただきまして、笙子はしあわせものでございます。
ありがとうございます」
紗和は、ようやくいつもの落ち着きを取り戻した。
「失礼いたします。父上、守善さまがいらっしゃいました」
障子を開けて、颯一朗が事の成り行きを心配して顔を出した。
「颯一朗、鶴久柾彦先生だ。
笙子とお付き合いをしてくださることになったからね。
鶴久先生、笙子の兄の颯一朗でございます。
嫁の繭子(まゆこ)は、臨月で里帰りをしております。
それでは、私は、失礼させていただいて店に戻ります」
弦右衛門は、柾彦に颯一朗を紹介して、座敷を後にした。
「どうぞ、笙子をよろしくお願い申し上げます」
颯一朗は、廊下で丁寧にお辞儀をして、弦右衛門の後に続いた。