柾彦さまの恋
柾彦は、笙子の紹介も兼ねて銀杏亭に車を走らせた。
杏子の熱い好奇な視線を浴びながら、柾彦は、笙子と向かい合わせで、
遅い昼食を食べた。
柾彦は、祐里と過ごす掴み処のなかったしあわせとは異なる
今まで感じたことのない満ち足りたしあわせを感じていた。
「杏子の言う通り、柾彦先生を好いてくださる方に巡り合ったでしょ。
それにこんなに若くて可愛らしい方なのですもの。
本当によかったですわね」
杏子は、明るい声で、恥ずかし気な俯き加減の笙子に笑いかけた。
「ありがとう、杏子。これでまた杏子には頭が上がらないよ」
柾彦は、背中を押してくれた杏子に感謝していた。
「笙子さま、柾彦先生がじれったい時は、杏子におっしゃって
くださいませ。 厨房の火をお貸ししますからね」
「ぼくは、食材ではないのだから」
「杏子さま、ご指導をよろしくお願い申し上げます」
柾彦と杏子の笑い話に、笙子もすっかり打ち解けて、
一緒になって声をたてて笑っていた。
柾彦は、駆け足で沈む師走の夕日が輝く中、
笙子を送って車を走らせていた。
「笙子さんと一緒にいると時間が一瞬のようだね。
このままぼくの家に連れて帰りたいくらいだ。
明日は、迎えに行って、ぼくの父と母に紹介するよ」
柾彦は、笙子と離れることが寂しく感じられ、
一刻も早く結婚したいと思った。
「はい、柾彦さま。父上さまと母上さまに気に入っていただけると
嬉しゅうございます」
「笙子さんなら、一目で気に入るよ」
笙子は、後部座席から運転席の柾彦に熱い想いで応え、柾彦は、鏡越しに
頷き返した。
「奇麗な夕日だね」
柾彦は、路肩に車を停めて笙子を降ろし、ちょうど山に沈んでいく緋色の
夕日を笙子と寄り添って眺めた。
「笙子さん、桜の頃にぼくと結婚してください。
今すぐにでも結婚したいくらいだけれど、いろいろと準備があって、
そういうわけにもいかないだろうからね。
ぼくは、この夕日のように熱く笙子さんを愛しているよ」
「はい、柾彦さま。喜んでお受けいたします。
どうぞ笙子をよろしくお願い申し上げます」
柾彦は、真剣なまなざしで笙子を見つめ、肩を抱き寄せた。
笙子は、柾彦の情熱的な愛情を感じながら、柾彦にぴったりと寄り添い、
寒さも忘れてしあわせいっぱいに輝いていた。