柾彦さまの恋
「ずっと祐里さんのことを好いていた柾彦さんが道を踏み外さないように、
祐里さんが気を遣ってくださったからでございます。
祐里さんと祐里さんを疑うことなく寄越してくださった光祐さんに、
本当に感謝してございますのよ」
結子は、高校生の柾彦が、初めて祐里に恋をしてからのことを
思い出していた。
一途に祐里を大切に想うだけの柾彦が、想い余って祐里を抱きしめていた
場面に遭遇した時は驚き悩みもしたが、
それも祐里が上手く切り抜けて、それ以後も変わらぬ態度で
柾彦と接してくれている。
「おばさま、私は、女学生の頃から、いつも柾彦さまに
守っていただきましたし、勇気づけていただきました。
私こそ、柾彦さまには感謝してございます。
それに桜河は、弟のように柾彦さまを信頼してございますもの」
祐里は、柾彦がいつでも優しく守ってくれたことを思い出しながら、
結子の手を取った。
「祐里さんは、本当に神さまのように慈悲深くて謙虚でございますわね。
桜河のご家族は、嘸(さぞ)かしおしあわせでございましょう。
初めて祐里さんにお会いした時から、私は、あなたを
柾彦さんのお嫁さんにと思っておりました。
適(かな)わぬ夢でございましたけれど」
結子は、祐里を強く抱きしめた。