柾彦さまの恋
結子と祐里が話をしているところに、柾彦と笙子が顔を出した。
「姫。こちらだったのですね。
笙子さんを紹介しようと思って探していたのですよ」
柾彦は、笙子の肩を優しく引き寄せた。
「柾彦さま、笙子さまの前で姫とお呼びになられては……
これからは、お辞めくださいませ」
祐里は、困った顔をして柾彦を窘めた。
「でも、姫は、姫だもの。
姫に会ってから、今まで、姫としか呼んだことがないから、
今更、他の名では呼べないよ。
桜河の若奥さまって、呼べばいいのかな」
柾彦は、おどけながらも、照れて困っていた。
「祐里さま、私は構いません。
柾彦さまが、祐里さまをずっとそのようにお呼びして来られたので
ございますから、今更、変えずともよろしゅうございます。
それに祐里さまには、姫という愛称がとてもよくお似合いで
ございますもの」
笙子は、祐里をずっと想っていた柾彦に、現在愛されているだけで
嬉しかった。
「まぁ、笙子さま。本当に私は、姫ではございませんのよ」
祐里は、困惑しながら慌てて打ち消した。
「私もこれからは、柾彦さまと同様に、姫さまとお呼びいたします。
姫さま、どうぞ、よろしくお願い申し上げます」
笙子は、柾彦に寄り添って、丁寧に祐里にお辞儀した。
「これで決まりだね。姫は、今まで通り姫だからね」
柾彦は、笙子の肩を抱きながら、しあわせに溢れる笑顔を見せた。
「笙子さま、こちらこそ、どうぞよろしくお願い申し上げます」
祐里は、諦めて笙子にお辞儀を返した。
柾彦は、ようやく、祐里への恋慕から卒業できそうな気がしていた。
そして、笙子をこれから最愛の女性として愛していこうと決心した。
祐里は、仲睦まじい柾彦と笙子をこころから祝福しながら、この時を
待ち焦がれていた結子とともに安堵していた。