柾彦さまの恋
柾彦は、まことにしあわせいっぱいだった。
祐里をひたすら守り通して、恋い慕い、その友情を壊すことなく、
今、笙子というかけがえのない女性に巡り合い、溢れる愛情を注いでいた。
柾彦の恋は、祐里から笙子への愛に羽ばたいたのだった。
鶴久病院の冬枯れの桜は、寒風の中で、着々と芽吹く準備を始めていた。
来春の柾彦と笙子の婚礼の日の華やかな開花を夢見て、
静かに枝を揺らしていた。
柾彦と笙子に「永久に幸あれ」と微笑みかけているようであった。
祐里は、お屋敷に戻ると、桜の樹の下に向かった。
「桜さん、祐里は、光祐さまのお側で恙無く過ごすことができまして、
しあわせでございます。
桜さんのお陰でございます。ありがとうございます」
祐里は、溢れんばかりのしあわせな笑顔で、
桜の樹に感謝の気持ちを伝えた。
桜の樹は、幹に当たる陽射しを反射させて、
祐里のまわりに光を投げかけていた。
〈 桜ものがたり 第二章 柾彦さまの恋 完 〉
*** しあわせに包まれたお屋敷に過去からの風が吹いてきます。
宿命に対峙する光祐と祐里の桜ものがたりは、
追章「神の森」で
祐里の出生秘話へと展開していきます。
愛するひとをここまで大切に思い遣ることができますか。
究極の愛のものがたりを再び実感してくださいませ。***