柾彦さまの恋
その日の午後、
杏子は、銀杏亭へ生花の生け込みに訪れた萌を
「待っていました」とばかりに捉まえて相談を持ちかけた。
「萌さまのお弟子さんで、柾彦先生とお見合いをされる方は、
いらっしゃらないかしら。
お節介をやかなければ、柾彦先生のことだから、
このまま独身を通しそうなのですもの。
素敵な殿方なのにもったいのうございましょう」
杏子のお節介は、子どもの頃から変わらなかった。
「柾彦先生とお似合いの方でございますか。
柾彦先生がその気になられたのでしたら、善は急げでございますわ」
萌は、独身の弟子たちの顔を思い浮かべていた。
「その気にはなられていないのですが、こちらから策を講じて、
その気になっていただきたくて・・・・・・
お好みは、祐里さまのように慎ましくて可憐な方でございますよ」
杏子は、萌に念を押した。
「祐里さまは、母になられても昔のまま可憐で、
光祐お兄さまは、相変わらずくびったけでございますし、
柾彦先生にとっては、永久に理想の姫でございますものね。
女好きの春翔(はると)でさえ、祐里さまの前に出ると
見惚れて何も言えなくなってしまいますのよ」
萌は、声をたてて笑った。
そして、一人の弟子の顔を思い出した。
「杏子さま、私に考えがございます。おまかせくださいませ」
萌は、胸を叩いて、笑顔で引き受けた。