柾彦さまの恋

恋慕

 毎週水曜日の午後、

 祐里は、鶴久病院の入院患者を見舞う奉仕活動をしていた。

 以前に祐里が知人の見舞いに訪れた病室で

『祐里さまが病室にいると、気分がよくなり痛みが和らぐようだ』

という入院患者の声を聞きつけた結子が、試しに祐里に依頼したところ、

不思議なことにどの病室からも歓迎されたのだった。

 祐里も入院患者が楽しみにしているのを知り、喜んで見舞っている。


「ご機嫌いかかでございますか」

 祐里は、病室を廻り、手を握ったり、痛いところを撫でたりして、

ひとりひとりに優しく話しかけた。

 祐里の慈悲のこころは、入院患者を元気付け、しあわせな気分にしていた。


 その評判は、口伝てに広がり、鶴久病院の受診者は、ますます増えていた。


祐里は、院内の見舞いを終えて、副院長室前の廊下で柾彦に出会った。

「姫、お疲れさま。美味しい珈琲をご馳走しますよ」

 白いワンピース姿の祐里は、病院の廊下に差し込む

秋の和(なご)やかな陽射しに輝いていた。

 柾彦は、昨夜から急病の患者にかかりきりで、心身ともに疲れていた。

 杏子から結婚話を突かれたことも影響してか、

こころが祐里の優しさを求めていた。

「柾彦さま、お疲れさまでございます。お心遣いありがとうございます」

祐里は、柾彦の後から副院長室に入って、静かに扉を閉めた。

< 9 / 64 >

この作品をシェア

pagetop