幸福の時間へようこそ
「うわー、よく言えるわね、そういうこと」


パタパタと手を振って、花梨はできるだけ冗談ぽく聞こえるように返す。


「だって、言わなきゃ伝わらないじゃないですか」


忠犬、ラブラドールレトリバーはくじけない。


「ハイハイ」


いつものように、花梨は軽く受け流した。


「あ、でも花梨さん」


「んー?」


「失恋じゃなくても、なにかあったんですか?」


「なにって?」


「髪を切る理由ですよ」


「別に、ないけど……」


「あ、もしかして決意、とか!」


「なんの決意?」


「25歳に向けての決意ですよ、花梨さん、もうすぐ誕生日でしたよね」


そうだった。
忙しさに流されてすっかり忘れていたが、来週は誕生日だ。

25歳の、誕生日……。
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