幸福の時間へようこそ
「あー、ずるいっすよ! タカさん!!」


チョコレート色のドアを閉めながら、悠一郎が声を上げる。


「おはよう、ゆうくん。朝から騒々しいねぇ」


やんわりとたしなめるように、孝之が返す。
ダンボールは、レジ台の裏におさまったようだ。


「だって、俺が先に言おうと思ったのに……」


「ああ、花梨ちゃんの髪のこと?」


「そうですよ……」


拗ねたような、悠一郎の声。


「いつも言ってるけどね、悠一郎くん」


孝之は改まったような口調で、ピっと人差し指を立てる。


「タイミングを逃してはいけないよ。ちょっとのすれ違いで、幸運はするりと逃げてしまうんだから」


「わかってますよ、それくらい……」


「それなら朝、出会ったとき真っ先に言うべきだったね。一緒に入って来たってことは、花梨ちゃんと途中で会ったんだろう?」


「そうですけど……」


「それから、ついでに言っておくと」


「なんですか?」


「ところ構わずいつでもアピールするのは、タイミングをはかってるとは言えないよ」


チラリと視線を動かす孝之。
その先には花梨の姿があった。

店から支給された黒いシンプルなエプロンを着けているところだ。
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