幸福の時間へようこそ
「俺もタカさんくらいの歳になったら、渋くかっこよくなれますかね?」


ピタリ。

ポップを書く手を止めて、花梨は悠一郎を見た。
期待をこめた目が、見つめてくる。
キラキラとしている……。


「うーん、そうね……、ゆうくん、悪くないし、大丈夫じゃないかな」


「えー、なんですかそのぱっとしない答えー」


不満そうに口をとがらせる悠一郎。
その甘えた口元が、幼さを感じさせる。


――悪くない、なんてウソだ。


ポップカードに視線を戻しながら、花梨は思った。


悠一郎はモテるだろう。
性格に体格、それから顔立ち。どれも申し分ない。


「もっとちゃんと見てくださいよー、俺のこと」


「もうすぐ開店よ、仕事しなきゃ」


言いながらも、チラリと悠一郎に目をやる。


キリリとした眉の下には、切れ長の大きな目。
黒目がちの瞳が、犬っぽさに拍車をかけている。

鼻に存在感があるのは、大きいからではなく、筋がスッと通っているからだ。

一見すると厳しめの印象を与えそうな、男らしい目や鼻を補っているのは、甘えたような唇。

頬笑みを形作る口角が、人懐っこさを醸し出している。

さらに。

ゆくるウェーブのかかった長めの黒髪は、無造作に流れ、センスのよさをアピールするとともに、どことなくラブラドールレトリバーを連想させた。


「花梨さん」


ふいに名前を呼ばれて、花梨は慌てて視線をそらす。
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