君へ
…っていうか、こんな男見たことない気がする。
こんな整ってる顔なら忘れるわけないもの。
……まっそんなことどうでも良いけど。
ふう、と一息ついてからピアノの席を立ち、あの男の鋭い視線を背中に感じながら音楽室を後にした。
――――――――
――――
――――――
ー2ーAと刻まれたプレートを見上げてグッと下唇を噛み締める。
……入りたくない。
自分の教室に入ることに勇気がいるなんて、端から見たら変なことなんだと思う。
私には、そんなちっぽけな勇気もないのか。
自分に苛つきながら、深く深呼吸をすると思いきり戸を開けた。
「――っ!!」
「あっごめんねぇ、わざとじゃないんだぁ」
下腹に鈍い痛みが走り、一瞬、意識が遠退いた。
「――ッゲホッ」
ああ、蹴られたのか。
瞬時に理解して、倒れ込んだ体を持ち上げた。
周りをぐるりと見渡せば、クスクス笑う美香の姿と、取り巻きが見える。
「やだっなんかくさくない?」
「確かに~かめむしでもいるんじゃない?」
――ーどうして?
数ヶ月前まで一緒に笑ってたよね?
……友達って言ってたよね…?
目の前にいるのは、鬼のような仮面を被って、あたしを見下すように高らかに笑う美香。