揺れる想い~年下彼氏は小学生~㊦
「冗談はやめなさい、千花。担任の鈴木先生じゃないの」


明るく言ってはいるものの、彼女のお母さんの顔は少し引きつっていた。


それはきっと、篠原さん自身が真顔だったから。

真剣に、戸惑っている様子だから。


「あなたは、誰なんですか?」


そして今度は、その戸惑いの目を自分の母親に向けている。

娘から向けられる異様な眼差しに、お母さんの顔からはいよいよ笑みが消えてしまっていた。


「千花っ、いいかげんにしなさいっ!」


父親がそう声を荒げるものの、彼女はますます怯えていくばかりで。


たぶん、彼女は父親の事も分かっていない。


「何あれ……?もしかして、記憶喪失ってやつ?」


俺のベッドの横から見ていた梨香は、驚きを隠せないようだった。

でも、それは俺も同じだ。


やっぱり、落ちた時に頭を打ってしまったんだろうか?


気になって、俺はゆっくりと上半身を起こしていった。

あちこちに痛みを感じるものの、そんな事を気にしてる場合じゃない。


「えっ、大翔っ?」


慌てて、梨香が俺の体を支えてくれて。

なんとか、篠原さんの方を向いてベッドに腰掛ける事ができた。
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