揺れる想い~年下彼氏は小学生~㊦
「もう帰っちゃうの?6時半ぐらいになれば、大翔も帰ると思うけど?」


置時計に目をやりながら、まどかさんが残念そうに口を開いた。

その言い方は、逃げる私を嘲笑っているかのようにしか聞こえない。


「とにかく、今日は帰ります……」


手の付けてない、すっかり冷めきったコーヒーをそのままに。

私は、鞄を手にしてソファから立ち上がった。


「残念ね。せっかく話も盛り上がってきたところなのに」


思ってもいないくせに、彼女はそう言って立ち上がった。


その唇を。

その胸を。


大翔君がビデオの中で何度も味わっていたのを思い出すだけで、ムカムカとしてくる。


でも、それはただのヤキモチじゃない。


気がつかないうちに…嫌悪感を抱いてしまっていたんだ。

親子であんな事をしてしまっている、この2人に。


あんなに愛している、大翔君にさえも。


「怒られそうだから、今日の事は大翔には内緒ね。今まで通りにつき合ってあげて」


そう言って彼女は、綺麗にネイルされている白くて長い指を自分の唇に当てた。

その言葉には何も答えず、


「失礼します」


とだけ声を掛け、頭を少し下げて。


そのまま私は、逃げるように神崎家を後にした。
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