揺れる想い~年下彼氏は小学生~㊦
「左手は、しばらくギブスで固定するそうよ。右手じゃなくて良かったわね」


俺を慰めるつもりでそう言ってるんだろうけど、そんなのは何の慰めにもなってない。


グローブがはめれないんだったら。

野球ができないんだったら。


どっちの手だって…一緒だよ。


心の中で大きく溜息を吐いていると、


「大翔っ」


と、まどかさんの背後から声を掛けられた。


見ると。

隣のベッドで同じように座っている篠原さんが、俺に向かって手を振っている。


「あの子、ホントに大翔の事しか分からないの?」


小声でそう尋ねてくるまどかさんは、本田先生からおおまかな事故の経緯は聞いている。

もちろん、篠原さんの事も。


「とりあえずね。クラスの奴に会えば、また違うのかもしれないけど」


眩しいぐらいの笑顔で手を振ってくる彼女を見るのが辛くて、俺はそっと視線をずらした。

彼女には目立った外傷はないから、それだけが救いだ。


「自分が大翔の彼女だ、って思い込んでるってホント?」


声を潜め、面白そうにまどかさんが尋ねてくる。


こっちは…面白くも何ともないのに。
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