揺れる想い~年下彼氏は小学生~㊦
「本当に、突然お邪魔してしまって申し訳ありません」


そう言ってリビングに姿を現したのは…篠原さんの父親だった。

まどかさんに案内され、恐縮そうに俺の方へと近づいて来る。


「篠原さん、大翔に話があるんですって。鈴木先生には後から電話すればいいから、とにかく座って?」


有無を言わせぬまどかさんの口調に、仕方なくさっきまで座っていたソファに戻った。

彼女に勧められ、篠原さんのお父さんも俺の向かい側に腰を下ろす。


「休んでるところ、急に伺ってしまって…本当に申し訳ない」


40を少し超えたぐらいだろうか?

仕草や話し方の落ち着いた雰囲気から、会社でもきっと地位のある人なんだろうと思う。


俺なんかにもしっかりと頭を下げるところは、何となく…父さんを思い出させる。


「千花はまだ京都にいるんだけど、私はこれからどうしても会社に行かなくてはいけなくて。その前に…神崎君と話がしたかったんだ」


「……俺のせいで、本当にすみませんでした」


昨日、俺は篠原さんの両親と鈴木先生に事故について説明をした。


雅志の名前は出さなかったけれど。

友達に頼まれて篠原さんと話をしていて、彼女が俺を好きだと言ってくれた事。


そして、それを断ったら…彼女が急いで階段を降りようとして落ちかけてしまい。

咄嗟に庇って、一緒に落ちてしまったんだという事を。


説明を終え、俺は今みたいに彼女の両親に頭を下げた。


「千花が落ちたのは、君のせいじゃないから。それどころか、君が庇ってくれなかったら…もっとケガをしてたはずだ。謝らなくちゃいけないのは、こちらの方だよ」


そう言って、篠原さんのお父さんは俺に向かって深々と頭を下げてくれた。


「頭上げて下さい、篠原さんっ」


お茶を持って来たまどかさんが、慌ててそう声をかけ。

俺も言葉を続けた。


「ケガは無かったけど…篠原さんの記憶は戻ってないですから」


その言葉に、彼女のお父さんはゆっくりと頭を上げた。

そして真っ直ぐに…俺を見てくる。
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