揺れる想い~年下彼氏は小学生~㊦
「その事なんだけど……。千花の記憶が戻るまででいいから、恋人のフリをしてやってもらえないだろうか?」


「それは…昨日も無理だってお伝えしましたが」


やっと、この突然の訪問の意味が分かった。


昨日話をした時に、この事については一度断っている。

もちろん、俺には由佳がいるし。


嘘でも恋人同士になんてなれないから。


「無理を承知で、もう一度こうやって頭を下げに来たんだ。親バカだって笑われるかもしれない。だけど、今の千花を支えてやれるのは…君しかいないんだよ」


そして、もう一度深々と頭を下げられ。

俺は…言葉に詰まってしまった。


「協力してあげなさいよ。別に彼女がいるわけじゃないんだし、フリぐらいイイじゃない。それとも…何か引き受けられない理由があるの?」


一見、理解のある親の様な発言に思えるが。

まどかさんの真意が別にあるのは、目に見えて明らかだ。


あの人は、俺と由佳の事をまだ勘ぐってるんだろう。


「別に、理由は無いよ」


由佳との事を疑って、まどかさんは今回みたいな行動に出たんだろう。

自分と俺との行為を…見せてしまうような。


ここで俺が由佳とつき合ってるなんて認めたら、それこそ彼女に何をするか分からない。


「じゃあ決まりね。母親命令よ」


1人嬉しそうなまどかさんは、俺の隣に腰を下ろしてきた。

何か言いたげに微笑む彼女と目を合わせたくなくて、篠原さんのお父さんへと視線を向ける。


「お役に立てるか分かりませんけど、フリだけなら……」


そう告げると、彼の暗かった表情が一変して明るくなっていった。


「ありがとうっ、神崎君。本当にありがとうっ!」


何度も何度も、俺に向かって頭を下げてくる篠原さんの父親。

涙こそ流れてないものの、微かに目の辺りが潤んでいるのが分かる。


昔の俺だったら、別に悩むことなく引き受けていたんだろうけど。


だけど今は…愛する人がいるから。

その人の事を悲しませたくないから。


だから、こんなに心苦しいんだ。
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