揺れる想い~年下彼氏は小学生~㊦
「知らないけど」


「……そっか。じゃあ、ケガの事も知らない?」


“ケガ”という言葉に、私は思い出しかけていた。

女の子をケガさせてしまって、恋人のフリをしなくちゃいけなくなったという話を。


「もしかしてさ、ケガさせちゃった子の名前?その篠原さんって」


「何だ、聞いてんじゃん。それで?姉ちゃんは何て言ったの?」


「『何て』って言われても……」


克也に尋ねられ、私はさっきの会話を思い出していた。


「『頼まれたんなら仕方ないよね』って言った…かな?」


あやふやな記憶を辿りながら、そう答える。


「何それ。いいの?大翔が篠原さんの彼氏になっても」


私よりデカくなってしまった克は、呆れ顔を浮かべながら見下ろしてきて。

お子ちゃまな克也にバカにされてる気がして、何だかカチンとくる。


「いいわけないでしょ?だけど、仕方ないじゃん。ケガさせちゃったみたいだし、相手は記憶を失くしてるし。頼まれたんだったら、断れないよ」


ホントは私だってそんな事して欲しくなんかない。

だけど、断れないんだったら仕方ないじゃない。


大丈夫、大翔君は私をちゃんと好きだって言ってくれたから。


「直接大翔と話してないから、何とも言えないけどさ」


「克は誰に聞いたの?先生?」


「いや、水沢から」


「水沢…さん?」


いまだに、その名前には反応してしまって。

チクンと胸に何かが刺さったような感覚に襲われる。
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