揺れる想い~年下彼氏は小学生~㊦
「試合、間に合う?」


「午後からだから、大丈夫だよ」


電話で話をしていた時に、今日野球の試合がある事を知らせていた。

もちろん俺が出るわけじゃないんだけど、昨夜克也から電話があって絶対観に来いって言われてしまったから。


篠原さんは、それを快く承諾してくれた。


「ついて行かなくても、大丈夫でしょうか?」


俺達の会話を聞いていた彼女のお母さんが、心配そうな表情を浮かべてまどかさんに尋ねている。


記憶の無い娘が自分の付き添い無しで恋人と出かけようとしてるんだから。

心配になるのも無理はないと思う。


「大丈夫ですよ、私が付き添いますし。それに千花さんもいろいろなモノに触れていくうちに何か思い出すかもしれませんし」


試合を観に行く事をまどかさんに告げると、彼女が付き添う事を条件でオッケーを出してくれた。


少し離れた市での試合だから、きっと由佳は来ないだろうし。

とりあえず、俺はまどかさんに付き添いを頼んだ。


「篠原さん、くれぐれも無茶しないようにね。もちろん神崎君もよ」


黙って俺達のやり取りを見ていた本田先生が、幼い子を諭すようにそう釘を刺してきて。

とりあえず、「はい」と返事をしておいた。


「じゃあ、そろそろ行きましょうか」


まどかさんの声で、ふと周りを見回すと。

改札の辺りで話しこんでいるのは俺達だけだった。


みんなは忙しいのか、足早に横を通り過ぎていく。

その流れに乗るように俺達も歩き始めた。
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